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ドクターの二極化はいつ現れたのか【前編:医者の出世コースはどこへ】

私たちは年間数十人のドクターと会い、不動産と金融のコンサルティングを行っているのですが、痛感するのは、実際、医師の所得は今、完全に二極化しているということです。所得の高いドクターは「資産家ドクター」です。

資産家ドクターとは、年収で1,000万円以上を稼ぎ、なおかつ資産運用などを通じて、将来を見据えた資産形成に余念のないドクターたちです。資産規模は、最低でも収入の10倍、つまり1億円を優に超えています。

一方、圧倒的に多いのは「貧困ドクター」で、大学の勤務医によくみられます。医局のドクターはほかの医師に比べて平均年収が低く、30代で600万~700万円程度です。

この「資産家ドクター」と「貧困ドクター」 、かつてはほとんどが高収入であった医師の収入の二極化が現れた流れを本記事で見ていきます。

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激務を続けても報われなくなってきた医局員

今も昔も、医師としてのキャリアは医師国家試験に合格することからスタートします。その後は、卒業大学の付属病院などで研修医となるわけですが、以前は過酷な労働環境や毎月10万円程度の低賃金といった厳しい条件でも「いつかは報われる」と堪えることができていました。

このときの「報われる」とは、大学病院における「講師→准教授→教授」という出世コースに乗ることを指します。教授に就任できれば、給与は上がり研究の幅も広がるため、さらなるキャリアアップと収入アップが見込めます。 さらに、かつての教授職の旨味はそれだけではありませんでした。

たとえば製薬会社からの講演依頼や原稿の執筆依頼が来るようになります。その謝礼は5万円から30万円といわれており、力のある教授の医局の場合、奨学寄附金が年間数千万円に上ることもありました。かつての教授職は関連病院の運営面でも大きな影響力を持っていたため、製薬会社側としては是非とも関係を築いておきたい役職だったのです。

しかし、それも今となっては過去の話です。医局と製薬会社の関係は2013年に発覚した外資系製薬会社の不正論文問題で一変しました。世間から厳しい目が向けられたことで製薬会社側も自主規制をするようになり、以前のような高額の謝礼や援助は受けられなくなっています。

また、教授が医局の人事に絶対的な権力を持っていた頃は、優秀な人材を求める関連病院から1000万円以上の紹介料を受け取っていたり、一般の医師の6倍にもなる日当をもらっていたりといったことも往々にしてありました。

新医師臨床研修制度の導入により、進む研修医の医局離れ

ところが、2004年の新医師臨床研修制度の導入を境に状況が変化していきます。それまでは大学病院での研修期間や関連病院での管理職経験を経なければ転院や開業といった選択肢は考えられませんでしたが、新制度によって、医学部を卒業した時点で自身のキャリアを選択できるようになったのです。

大学病院以外でも臨床研修病院の指定を受けた病院であれば初期研修を受けられるようになり、その後の後期研修、さらにその先の勤務先まで自分で決められるようになったのです。これは一般的な労働市場ではすでに当たり前となっている正社員か契約社員かアルバイトか、といった雇用形態も自由に選べることも意味します。

ここで研修医の医局離れが一気に加速します。厚生労働省の調べによると、2003年度に研修先として大学病院を選んだ医師は 72.5%でしたが、2014年度には42.8%と約30ポイント減少しています。院内政治に振り回され、いつ地方の病院に飛ばされるか心配するよりも、ワーク・ライフ・バランスを重視してより自分らしい人生を歩もうとする最近の若者の思考が読み取れる結果です。

新医師臨床研修制度は、本来医師にとって歓迎できる制度のはずです。しかし、一方で従来の医局から地方関連病院へ医師を送ることは、僻地への医師派遣として社会貢献になっていたことも事実です。そのため、現在は都市部に医師や病院が密集し、地方や過疎地には不足するという事態が起こっています。これにより医師たちは都市部では生存競争を、過疎地では過剰勤務を強いられることとなってしまったのです。

崩れ出した大学病院を頂点とした 「白い巨塔」

若手医師の医局離れの原因は制度の問題だけではありません。通常、組織の年齢構成は、ピラミッド型や台形型のようにベテランや中堅よりも若手が多いことが理想とされます。ところが日本の医師業界では、1982年から2008年まで行われた医師数の抑制によって、年齢構成のピラミッドがベテラン部分の厚い四角形に近づいていったのです。

この弊害として現れたのが、部下を持たない管理職の増加です。管理職になるべき年齢に達しても部下となる医師がいない、という状況が全国で散見されました。しかし、一般企業と違い大学病院はリストラとは無縁だったため、○○教授といった様々な新しい管理職ポストを生み出していったのです。

これにより雑務を指示する管理職ばかりが増え、人数の少ない若手は過酷な労働を強いられるようになります。しかも、数年先を想像しても管理職のポストはいっぱいで、空きそうにありません。

仕事は増える一方なのに、管理職になれる保証はない--、以前のような医局の旨味が得られない状況では、仕事に対するモチベーションは下がる一方です。

実際、このような背景から多くの若手・中堅医師が医局を去っています。最近は医師の転職サイトが充実しており、昼休みや通勤時の数分を利用すればいくらでも転職情報を得ることができますから、より好条件の病院へ転職したいと医局を離れるのは自然な流れと言えるでしょう。

一方、医局員の数が減れば関連病院や市中の病院への医師派遣は思うようにいかなくなり、教授の関連病院などへの影響力も低下していきます。

当然、影響力のない教授に対して製薬会社は興味を持ちません。その結果、大学病院という「白い巨塔」を構築してきた教授職の力は激減、かつてのような高収入が得られなくなっていったのです。


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